イメージについて、カテゴライズについて、「イスラーム国」を考えるために。宇山智彦(編著)『中央アジアを知るための60章【第2版】』(明石書店)から

中国政府はさまざまな側面から施策を打ち出してきた。第一に、ウイグル人の民族運動に対する批判の大々的な実行、不審な個人・グループに対する取り締まりの強化、などである。また知識人や民族資本家など、指導的な立場のウイグル人に対する圧力も増大した。前述のアクト県バリン郷事件の後、ウイグル人に五千年の歴史があるとしたトゥルグン・アルマス著『ウイグル人』を非難するキャンペーンが広範に展開され、著者は自宅軟禁状態に置かれた。九八年には、日本の東京大学大学院でウイグル人の歴史を研究していたトフティ・トゥニヤズが、一時帰国中に逮捕され、懲役一一年という重刑を科された。しかし、その「罪科」とされるものに実体はなく、文書館における目録の複写と日本での著書刊行計画にすぎない。/第二に、国際的な連携の推進ということが挙げられる。すなわち、ロシアおよび中央アジア諸国と協力しつつ、自国内の「分離主義」について対処していくということである。一九九六年に、中国、ロシア、カザフスタン、クルグズスタン、タジキスタンの五カ国で「上海ファイブ」が成立し、イスラーム原理主義、民族分離主義、テロに対して共同で対策をとることが表明された。さらに二〇〇一年六月には、ウズベキスタンも加えた「上海協力機構」が発足している(第五七章参照)。このような国家レベルにおける連携は、ウイグル人民族主義組織の活動の抑制という点において、新疆とカザフスタンの間で実務レベルの協調が見られることにも表れている。/ただし、ここで注意すべきは、新疆における種々の事件が一様に統一的な民族独立運動の一環として発生したものである、と断定することはできないということである。政府によって分離主義的な活動として発表された事件の中には、自然発生的な示威運動、小規模な過激グループのテロ、通常の凶悪犯罪など、さまざまなレベルのものが含まれている可能性がある。また、在外ウイグル人組織の影響が新疆に及んでいる形跡はあるものの、それがどの程度の規模と深度をもつのか、定かではない。さらに、これらの事件は基本的には局所的・一時的な現象えあり、ウイグル人社会の大部分においては、平穏な生活が営まれていることも銘記すべきである。現在の心境を、「民族独立派」対「中国政府」の紛争地域、というような図式に単純化することは厳に慎まなければならない。(新免康)

最近IMU以上に注目されているのは、「解放党(ヒズブッタフリール)」である。IMUはさまざまな民族の出身者をメンバーとしながらも(それは一つには、ターリバーンが中国とロシアの圧力をかわすため、ウイグル人やチェチェン人の兵をIMUに押しつけたからである)、当面の目標はウズベキスタン一国の政権の打倒であった。それに対し解放党は、パレスチナ生まれで世界各国に活動を広げる、真に国際的な組織である。ムスリム地域のどこかにカリフ国家を樹立し、全世界のムスリムをカリフに従わせるという構想を持っている。中央アジアではウズベキスタンを中心に、タジキスタン、クルグズスタンやカザフスタンにも活動を広げており、各国の当局は関係者を手あたり次第に逮捕しているが、五人前後の細胞単位で活動する秘密組織であるため、一部を逮捕しても一網打尽にすることは難しい。/なお解放党は、政治闘争が熟せばという条件付きで、武力でカリフ国家を樹立できる勢力がほかに現れればじ「助勢要請」を行うという革命理論を持っているが、自らは武装闘争を行ってはいない。それにもかかわらず弾圧を受けているという事実は、かつての革新派弾圧と同様、政権の反イスラーム運動政策が、テロ対策よりも思想統制の性格を強く持っていることを示している。最近では解放党は、「対テロ戦争」で中央アジア各国がアメリカと協力していることに猛反発し、反政府的な呼びかけを強めている。/テロリストも非暴力的なイスラーム運動家も、中央アジアのムスリムのごく一部であり、大多数の人々は平穏な生活を送っている。しかし、一連の問題がムスリム社会に断裂を生んだことは確かである。政権や宗務管理局は、中央アジアの伝統に沿った(客観的にはソビエト政権下でのあり方を受け継いだ)、国家に対し従順なイスラームのあり方が正しいと主張するのに対し、イスラーム運動側は、預言者ムハンマドの時代を理想とする厳格な解釈こそが正しいと主張し、互いの見方を排撃する。イスラームは信徒の団結を目指すはずであるのに、「正しいイスラーム」をめぐる争いが、信徒を分裂させているのである。(宇山智彦)

Kimra Iron's Ownd/鉄考書

木村鉄に才能はありません。 が、そこからしか考えることも書くことも、できません。  詩のように小説を。 小説のように詩を。 物語は、 理論として構成として構想として概念として。

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