民主主義について、塩尻和子(著)『リビアを知るための60章』(明石書店)から、

ジャマーヒーリーヤとは「直接民主主義」のことを指し、簡単に言えば、選挙によって選ばれた国民の代表による政治ではなく、一八歳以上の国民のすべてが直接国政に携わるというシステムである。カッザフィーの著書『緑の書』によれば、「人民の代表などありえない」とされ、選挙によって選ばれた代議員による政治は欺瞞であり、非民主的であるとされる。代表による議会ではなく、人民が直接参加する「人民会議」こそが民主主義の原点であり、ジャマーヒーリーヤであるということになる。

現在でもリビアのあちこちに「人民会議なくして民主主義はない」という標語が掲げられている。全国人民会議の会場にも、ひな壇の後ろにこの標語が大きく掲示してある。/また、各地区の基礎人民会議には各戸、各組織から必ず一人は会議に参加しなければならないと決められているので、議会が開催されている時間帯は、商店などは営業が禁止される。実態はともかく、表向きには国民が全員参加の「直接民主主義」は、現在でも維持されているということができよう。/したがって、リビアには一般的な意味での「政府」も「議会」も「内閣」も「国家元首」もないということができるが、それでは話がわかりにくいので、本書ではリビアの行政機関をさしていう場合、「リビア」政府ということにする。/このシステムの外側に独立したかたちで「ジャマーヒーリーヤ思想」の拡大を図る革命委員会と「武装人民」(アル・シャアブ・アル・ムサッラフ、Armed People,国軍の意味)を指揮する暫定国防書記局がある。これら以外の政治団体や政党結成、政治活動は非合法とされている。リビアでは国防はすべての国民の義務であるとして一九九八年に陸軍を「武装人民」とした。正規軍でも人民軍でもなく、武装した人民という意味である。/カッザーフィーは、先進国が作り上げた国家運営の構造をリビアにはふさわしくないとして退け、新たに独自の組織を作り上げたが、機構の名称はどこか共産主義国のものに近い。カッザーフィーはこの体制を自著『緑の書』で円形の図表を描いて説明しているが、円の中央へ行くほど権力が集中してくることが読み取れる。この図表だけを見ても、直接民主主義とはいいながら、実際には完全なピラミッド構造になっていることが理解できる。

Kimra Iron's Ownd/鉄考書

木村鉄に才能はありません。 が、そこからしか考えることも書くことも、できません。  詩のように小説を。 小説のように詩を。 物語は、 理論として構成として構想として概念として。

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