誘われるんだけど、だけど、

 面倒だ。

 嫌だ。

 そんな自分の気持はよくわかってる。断りたい、ほんとうは。そんな自分の気持をわかっているどころか、誘われて連れられていったらどういうことになるものか、それもよくわかってる。たいして美味しくもないものに、馬鹿にならないくらいどころか馬鹿みたいに高い勘定を払わされて、奢ってもらったって食べたくないくらいの美味しくないものに身銭をきらされて、それでいてここはどこそこよりも美味しいとかどこそこよりも美味しくないとか、話題はそれだけ。ほんとうにそれだけしか話題はない。しかも美味しいか美味しくないか、それは自分の舌とか足とかによるんじゃない。何らかの権威に追従して、その権威と自分を同一化しているだけ。仕事はもちろんのこと、そんな道楽においてだって自分で責任をとるつもりなんか毛頭ないんだ。それでいて、それだけのために働いている。道楽のために働いているんであって、働くための道楽なんかじゃない。だから仕事もろくろくできないままで、できるだけ働かないで、適当に道楽のためのカネとチカラとだけをえようとしているわけなんだが、つまりは慰安のための戦争であって戦争のための慰安なんかじゃないというも同然のこと。それを可能とするために、許可されるためにも認知されるためにも権威とできるだけ一体化すればいいということ。権威から命じられることには強いられてでも黙って従って、それでいてできるだけ働かないで責任をとらないで。そうとわかっているのに、どうして断らないでいられるものか。だけど、どうやって断ったらいいものか。するときみが迎えにきてくれるんだよ、このところ。

 そうかね。

 迎えにきてくれて、一言だけ、

 帰るよ。

 と口にして、背を向けて歩いていってしまうものだから、わたしはそのあとを追いかけなければならなくなる。しかしそのおかげで、きみが迎えにきてくれて、そのあとを追いかけなければならなくなるから誘われていることを断ることができるというわけだ。

 かっこいいな。

 そうだな。

 怒ってるわけじゃないんだろう。

 怒ってなんかいない。迎えにきてくれてるんだから。

 迎えにはきたものの、きみが、わけのわからない、見るからにわたしが腹をたてるような連中に誘われているところをまのあたりにすることで、呆れて、怒って、それで背をむけておいていってしまうというのではないということかね。

 怒ってなんかいない。

 帰るよ。

 なんだから。優しい声だよ。怒ってるんなら、



Kimra Iron's Ownd/鉄考書

木村鉄に才能はありません。 が、そこからしか考えることも書くことも、できません。  詩のように小説を。 小説のように詩を。 物語は、 理論として構成として構想として概念として。

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